AtoJ — ACCESS to JUSTICE

"Access to Justice"をすべての人に

ー弊社森はなぜ、AtoJという会社を設立したのか

「既存の仕組みでは救われない紛争を解決したかったんです」

共同創業者・共同代表の森は、弊社の設立経緯と存在意義を、そのように定義します。


弁護士として長年、司法の現場で尽力し、時に壁にぶつかってきた森。

裁判や調停といった、既存の仕組みでは救われない「未解決の紛争」が社会に無数に存在していることを痛感してきました。


その課題に、テクノロジーとスタートアップの力で挑む仕組み、それこそが「ODR(Online Dispute Resolution)」です。


法律の専門知とデジタルの発想を掛け合わせ、誰もがスマートフォンから「正しい手続き」にアクセスできる社会を実現する。

社名の由来でもある"Access to Justice"という理念は、テクノロジーによって「司法のあり方」そのものを再設計しようとする挑戦です。

ODRに取り組もうと思ったワケ

そもそもODRとは何なのか。どのように機能すべきだと考えているのか。

このような問いに森は、こう返します。


「紛争解決には実は、裁判以外にもさまざまな方法があります。その1つがADR(Alternative Dispute Resolution)で、仲裁や調停、あっせんといった裁判以外の紛争解決手段全般を指します」


そしてODRとは、このようなADRをIT化するというような文脈で語られることが多く、欧米で先行するサービスもそのようなものに留まっていると森は考えます。

しかしADRを含め、これまでの紛争解決手段では多くの問題を解決できません。

むしろ既存の司法的なプロセスで解決できたのは、紛争全体の2割程度でしょう。

つまり、既存のADRをそのままIT化しODRと称しただけでは、なんら新しい価値を生み出さないのです。


「だからこそワンネゴでは、事業の1丁目1番地にこれまで司法から置き去りにされてきた、少額・大量の未払い債権問題の解決を置きました。数万円の債権回収を従来の法的プロセスで解決するのは非現実的です。弁護士に相談するだけで、その何倍ものコストが掛かります」


とはいえ、このような領域にODRを適用するためには、越えなければならないハードルがあるのも事実。


・司法的な紛争解決のプロセスを熟知し、加えて法が持つプラス・マイナスの両面を把握していること

・ODRに必要なテクノロジーに精通し、デザインの重要性を認識していること

・起業・企業化に必要な資金調達の知識だけでなく、エクイティファイナンスの力もあること


このうちの1つか2つを満たす起業家は大勢いるかもしれませんが、これらの条件をすべて満たす人は多くありません。

とりわけ最初の条件は、弁護士でなければ満たせないのでなおさらでしょう。


(自分なら、仲間とともにこれら要件をすべて満たし、"本物のODR"を作れるのではないか)

森が、AtoJの創業を決意した瞬間です。

弁護士でありながら、なぜスタートアップの道を選んだのか

「普通にキャリアを積めばお金になる職業なのに…。わざわざ起業するなんて、変な人ですね」

そんな疑問をぶつけられることが多いと、森は話します。


確かに司法試験は、国家試験の中で最難関といわれることも多く、合格すれば一般に弁護士の仕事に専念する人がほとんどでしょう。

にもかかわらずなぜ、起業したのか。しかもよりによって、困難極まりない、前代未聞で前例のない分野でのスタートアップであったのか。


「私のオヤジも弁護士だったんですが、新しもの好き、ガジェット好きなところがあって、昭和の時代から家にはパソコンがありました。5インチフロッピーディスクで三国志を遊んでたといえば、懐かしいと思う人も多いのではないでしょうか」


そんな原体験を持つ森は、若いころから黎明期のデジタル技術に慣れ親しんできました。

加えて、高校時代の得意科目は数学と化学だったと語ります。

そのため京都大学に進学後も、将来の進路に悩みます。

結果として父親と同じ弁護士の道に進むものの、自身の強みを生かせる領域への興味がなくなることはありませんでした。


「そんなこともあり、私が弁護士として最初に所属したのは、東京のAZX総合法律事務所でした。今でこそ珍しくありませんが、当時としては最先端の、スタートアップに特化した事務所だったんです」


時代は、ナスダックジャパンが生まれたばかりのベンチャーブーム。

この分野は米国が先行し、将来のユニコーンを育てる野心を持った弁護士が、いわば投資としてスタートアップを育て、それだけの莫大なリターンを受け取ろうという法務分野です。

森が弁護士として最初に所属したのも、そのような"異質"な事務所でした。


そこで出会ったのが、「VoiceLink」などの創業で知られる板倉雄一郎氏。

乞われて副社長にも就任するなど、ベンチャー経営のおもしろさにはまりこんでいきます。


「残念ながら、VoiceLink自体はIPOなどのイグジットに到達することはありませんでした。しかしこの間に経験したこと、出会った人たちとの仕事は、間違いなく今につながりました」


だからこそ、弁護士でありながら前代未聞のスタートアップを立ち上げたのだと、森は話します。

株式会社AtoJ(Access to Justice) なぜこの社名にした?

株式会社AtoJという、意味深だがよくわからない社名。その由来はどこにあるのでしょうか。


「単純に日本語訳すると、司法へのアクセスという意味になります。実は世の中に存在する紛争の2割程度しか、司法による解決にアクセスできていません。その間口を広げたい、そんな想いが、社名には込められています」


とはいえ、司法手続きというのは重いものであり、簡単に進められるものではありません。

当事者の双方から丁寧に話を聞き、証拠ひとつとっても適切な証拠調べの手続きを経る必要があります。

よく知られる三審制などで考えれば、イメージしやすいでしょう。

一審の地裁でダメだったら高裁で、高裁でダメだったら最高裁で判断するというように、重厚な手続きが司法には備えられています。


では、3万円とか5万円などの少額の手続きにおいても重い手続きが向いているかというと、それはムチャというもの。

その一方で、案件に応じてあるべき紛争解決方法のカタログが今、日本にあるかといえば十分ではないのも事実です。

だからこそ、より幅広く司法にアクセスできる手段を社会に実装すべきであり、そういった願いを込めて"Access to Justice"という社名で起業したと、森は話します。


「現在はITが発達して費用も安くなり、Zoomなどのオンラインミーティングも常識になっています。安価で簡単に使えるスマートフォンも普及しています。これだけのツールを活用すれば、より簡単に司法にアクセスできる。だからこそ、ODRなのです」

本当に事業として成立するのか、需要などあるのか?

「実は驚くような数字があるんです。既存のADRの実績は、年に数件とか十数件なのです。これをオンライン化、すなわちODRにしたところで、事業など成り立つわけがありません」


創業にあたり、そんな驚くべきデータがあったことを森は語ります。

しかし顕在化したニーズの下に、その何百倍、何千倍ものニーズがあると確信していました。

その根拠になったのは、共同創業者で共同代表の冨田の経験です。


冨田は若手弁護士時代、プロボノ活動の一環として膨大な数の少額・大量債権の回収業務を手掛けていました。

このような"お金にならない"督促・回収業務は従来、プロボノ活動でもなければ弁護士が直接取り扱わない領域ですが、世の中には大きなニーズがあります


「冨田がやっていたこのような業務をIT化、すなわちODRで行えば、文字通り"Access to Justice"を提供できる。債権者にも債務者の方にも、司法の恩恵を届けられると考えたのです」

なぜ共同創業だったのか、なぜ冨田と共に起業したのか

「今のAtoJには、冨田をはじめとした各領域のプロフェッショナルが集まっています。天の時、地の利、人の輪の全てが満ちていると思っています。逆に言えば、このメンバーが揃わなければきっと起業しませんでした」


その決め手の一つがUI/UXであったと、森は考えています。

ODRとはADRのオンライン化という要素が大きいので、UIが事業の成功を決める最大のポイントのひとつです。この部分が使い物にならないと効率化どころか仕組みが機能しません。


その点において、冨田は少額・大量債権の回収現場で文字通り修羅場をくぐり、業務フローを知り尽くしています。

そのうえでUI/UXのデザインにも精通しているのだから、彼でないとその基礎を作れなかった。

森は冨田とのパートナーシップを、そのように考えています。

しかしそれ以外にも、最初から仲間と共に起業をする、意外な目的がありました。


「実は私、仕事に関して社会正義というような想いももちろんあるのですが、同じくらい大事にしている価値観があるんです。それは、どんなメンバーとどんな時間を過ごしたか、という体験であり記憶です」


綺麗事のように聞こえるかもしないが、実はこれが本当に重要だと語る森。

事業がうまくいき、上場しようがお金持ちになろうが、それそのものに、個人的には大した意味はない。

そんなことより、このスタートアップでワクワクしながら、みんなで「目標達成だ、わーい!」みたいなやつの方がカタルシスがある。


「そんな私ですから、一人で起業するというような発想は全くありませんでした。デキるやつらと、ともに楽しい時間を過ごしたかったんです」

創業における大事な価値観の一つ 「勝ち負けではない紛争解決のあり方」とは

「よくある誤解の一つが、ワンネゴは債権者のためのサービスで、債権者の味方だというご意見です。これはまったく正しくありません」


森が創業時から大事にしている価値観の一つに、「勝ち負けではない、双方が納得できる紛争解決のあり方」というものがあります。

ODRがふつうのシステムと違うのは、ユーザーが債権者だけではないということです。

申立てられる債権者も、さらにその調停にあたる人もいる。ワンネゴは、この調停の役割を担う存在です。

そのため、債権者・債務者どちらかだけを向いているのは正義に反します。

あくまで中立の機関として、公平性を担保する仕組みでないといけません。


その一方で、裁判というのは判決という形で結論を出します。それは国家権力がないとできないことです。結果、勝ち負けという要素が生じます。


「そんな前提の上でなのですが、どんな紛争でも、双方の想いを突き合わせてみると、折り合えるポイントが見つかるものなのです。ODRというのは、そのプロセスを発見する仕組みでこそ、力を発揮すると思っています」


合意を目指し、勝ち負けではない問題解決を目指す仕組み。

それこそがワンネゴの描く理想の問題解決の在り方だと、森は考えます。


お互い合意点を見つけられる可能性があるんだったら、裁判をする必要はない。

情報を全部出してもらって、早く合意点を見つけた方が双方にとって費用的にも時間的にも、問題解決のハードルが大きく下がる。

それこそが、ワンネゴが社会に提供できる新しい選択肢なのです。

ワンネゴが実現したい社会像と森の使命感

「ODRを社会インフラに育て、一人でも多くの人に司法の恩恵を届けること。ワンネゴの目指す社会像を一言で言うなら、そういうことになります」


残念ながら、ODR的な解決はまだ多くの人に認知されている状態とは言えません。

ODRという仕組みを知る人が少ないのですから、インフラともいえません。

しかしこの仕組みが社会に広く普及すれば、必ずインフラと呼ばれるような存在になると、森は確信しています。


複雑な案件や、深刻な法的紛争であれば、まず弁護士に相談するというニーズはこれからも変わることはないでしょう。

しかし、例えば数万円~数十万円のような少額の紛争であれば、「まずワンネゴに投げてみよう」と思ってもらえるようになること。

そうなれば、個人でも気軽に、スマホだけで解決できる可能性が生まれてきます。

まずワンネゴを使ってみて、それでもダメなら他の手段に移行してもいい。

そんなシステムを社会実装することができれば、さまざまな問題を解決するためのハードルが非常に下がります。


「僕の使命は、エバンジェリストとしてそのことを社会に対して丁寧に伝えていくことだと考えています。そして"法の安心を世界中の手のひらに"という未来を実現すること。それが私の使命です」

代表取締役/共同創業者 森 理俊
代表取締役/共同創業者 森 理俊

インタビュアー:桃野泰徳

作家・コラムニスト、ジャーナリスト。

主な著書:「なぜこんな人が上司なのか」(amazonベストセラー1位、新潮新書部門)

「自衛隊の最高幹部はどのように選ばれるのか」(週刊東洋経済)

朝日新聞GLOBE+(2021年8月~2025年3月連載)

長野県立福祉大学校(令和5年度 現代文入試問題)

本庄第一高校(令和7年度 国語入試問題)

冨田さんとは10年近くになる、飲んだくれの友達です。

座長:横内美保子

博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。

高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。

ウェブライター、編集者、ディレクターとしても分野横断的な取り組みを続けている。